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超短編小説 「笑顔」



 男は駅のベンチに座っていた。ベンチというよりは、かつてベンチだったもの。鉄の骨組みだけが残り、座るには不自由だが、他に選択肢はなかった。誰かがその骨組みに彫刻のように腰掛け、動かなくなっている。男は彼の顔を覗き込んだ。笑っていた。

 男は立ち上がり、笑顔のまま凍りついた彼の頬を指で押してみた。弾力はなく、氷のように冷たかった。まるで美術館の展示物だ。男は彼を見つめながら、自分のポケットを探った。何か、同じくらい価値のあるものがあれば交換できるかもしれない。

 ポケットの奥から、折りたたまれた紙を取り出した。昔、誰かにもらった手紙だった。内容は忘れたが、端に書かれた小さな笑顔のイラストだけは覚えている。男はそれをベンチの上に置き、代わりに笑顔の男の腕を取った。腕はするりと抜け、男の手の中に収まった。

 男はそれを持って駅を出た。外には誰もいない。いや、正確には皆が笑っていた。電柱にも、交差点にも、店の看板にも、笑顔が貼り付いていた。笑顔の腕を持った男も、やがて自分の顔に何かが張りつくのを感じた。

 ああ、これでようやく仲間入りか。男は試しに微笑んでみた。

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